【矯正専門のプロ:塩濱先生に聞く歯並びの話③】「受け口」と歯医者さん選びについて。
受け口治療において重要なことは、受け口の原因を見極めた治療を行うこと。
これまで2記事にわたって、しおはま矯正歯科の塩濱先生に歯並びやマウスピース矯正(インビザライン)について話を伺った。連載最終回の今回は、塩濱先生が特に注力している「受け口」の治療について探っていく。
受け口とは下の前歯が上の前歯より前に出ている状態で、「反対咬合」「下顎前突」とも呼ばれる。これまでの2記事にもあったように、塩濱先生は受け口を含む矯正治療を受ける際は「矯正専門の歯科医院」を選ぶことを強く勧めている。詳しく聞いていこう。
■受け口の一例
【編集者】まず、塩濱先生が受け口に注力されているのはどういった理由からでしょうか?
【塩濱先生】受け口を気にして一般歯科医院を受診しても、「成長が落ち着くまで様子を見ましょう」とか「大人の歯が揃ってから」などと言われ、治療の開始時期が遅れてしまうケースがとても多いです。昨年受診した患者さんからは、「アイスの棒で歯を押して、様子を見てください」と指導を受けた話も聞き、矯正専門医がいない時代ではないのだから・・・とひっくり返りそうになりました。
また、お子さんが3歳のときに受診して、直ぐに既製品のマウスピース装着を勧められたというケースもしばしばあります。この年齢でマウスピースの装着は難しいため、治療期間が長引き本人の負担が大きい割には効果が低いです。幼少期にマウスピースを装着出来た場合は、歯の傾きで一時的に治ることはあっても、上下の顎関係は治っていないため成長期に『再発』してしまい、その時になって当院を受診する患者さんも少なくありません。適切な時期に成長に合わせた治療を行わないと、受け口の根本的な解決にはならないのですが、矯正を専門とする歯科医師として驚くような話をたくさん聞くため、正しい情報の発信をしたいと思いました。
【編集者】矯正専門の歯科医院と一般の歯科医院の違いは何ですか?
【塩濱先生】ズバリ「顎のズレをちゃんと検査しているか?」ということです!矯正専門の歯科医院では、まず受け口の原因がどこにあるかを調べて、その上でお子さんの成長を予測し、骨格的な顎のズレを改善する治療を行います。
一口に受け口と言っても、以下のようにいくつかの原因があります。
上顎の成長が弱い
下顎の成長が強い
歯の傾き
お口周りの筋肉の不調和
上記4つの混在
歯の傾きだけが受け口の原因であれば、大人になってからでも治すことができます。しかし、受け口の多くは顎の成長が関係していることが多く、上顎と下顎の成長の時期が異なるために、受け口の原因がどこにあるかによって、適切な治療の時期や方法が大きく異なります。
当院では、受け口の原因を特定し正しく治療を進めていくために、さまざまな検査を行なっています。矯正専門の歯科医院ではスタンダードですが、一番大切なのは頭のレントゲン写真(セファロ)で、これを撮らないと受け口の原因がどこにあるかはわかりません!
加えて、当院ではお口の中に入れる装置は既製品を使うことがない点も、一般歯科との大きな違いだと思います。お子さん一人ひとりに合わせて装置を作るので、違和感が少なく、治療への協力度も高くなります。
頭のレントゲン写真(セファロ)をきちんと撮影します
【編集者】成長・発育に沿った治療とのことですが、受け口の治療は何歳ごろまでに始めるのが良いのでしょうか。
【塩濱先生】検査の結果、上顎の成長が弱い場合は、まず最初に上顎の成長促進を行います。ただし上顎は9〜10歳くらいまでの間にほとんどの成長が終了してしまうため、十分な成長を引き出すために7〜8歳ごろまでに治療を始めることが重要です。可能であれば小学校に入る年の春〜夏休みくらいにはスタートさせた方が良いでしょう。受け口の原因が歯の傾きだけという例は少なく、多くの場合は顎のズレを伴っています。
幼稚園や小学校などの歯科検診で受け口を指摘されなくても、また大人の前歯が出ていなくても構わないので、保護者の方が「おかしいな」と感じたら、ためらわずに矯正専門の歯科医院を受診してください。無駄な治療を防止し、お子さんの負担を減らすことにもつながります。仮に来院の時期が早すぎたとしても、適切な開始時期と治療方法をご説明します。保護者の方にとって、治療開始の時期を知って安心することも大切なことなので、遠慮なくご相談ください。
【編集者】「受け口の再発」というお話がありましたが、詳しく教えてください。
【塩濱先生】下顎の骨は、上顎の骨とは種類が異なり「長管骨」と呼ばれる骨の仲間です。この骨は身長が高くなるときに前方へ成長します。時期としては、女の子であれば小学校高学年ごろ、男の子であれば中学〜高校生ごろですね。
そのため、既製品のシールド状マウスピースなどで受け口が一時的に治ったとしても、上下の顎のズレは治ってないため、成長期に下顎も前方に伸びて、受け口が再発してしまいます。あるいは小学校低学年ごろに、軽度の受け口だからといって治療を受けずに放置すると、成長期に受け口はさらに悪化してしまう可能性が高いです。そうなってしまってから「あのとき顎のズレを治す治療をしっかりと受けるべきだった」と後悔しても、上顎の成長は9〜10歳くらいで終わっているため、時すでに遅しなのです。
考え方が少し難しいかもしれませんが、上顎と下顎は成長の時期が異なるため、後で来る下顎の成長期を見越して、上顎の成長が期待できる時期に対処する必要があります。これにより、一時的にあえて少し出っ歯にすることもありますが、さんまさんのように極端に出っ歯の状態にするわけではないためご安心下さい。
なお受け口の原因を探らず、まだ成長期ではない時期にやみくもに下顎を抑えても、大人になってから顎関節症を引き起こしたり、治療期間も長くなり、お子さんの負担が増加してしまいます。
【編集者】小児矯正などで使われる「既製品のシールド状マウスピース」と、これまでの連載で伺った「インビザライン」にはどういった違いがあるのでしょうか?
【塩濱先生】一口にマウスピースと言っても、「既製品のシールド状マウスピース」と「個々の歯を動かすための完全オーダーメイドのマウスピース(インビザライン)」は、形状も用途も全く異なります。既製品のシールド状マウスピースは、いくつかのサイズが用意されていますが、子ども一人ひとりの口に合わせて作られているわけではありません。そのため子どもは装着を嫌がったり、すぐに外してしまったりします。受け口の原因が、唇の圧が強いことや舌が正しい位置にないことにある場合は、既製品のシールド状マウスピースがお口周りの筋機能に働きかけ、功を奏することもありますが、着けていられないと効果は期待できません。
■既製品のシールド状マウスピース
また下顎の成長方向が前下方に強い場合は、前歯が合わさらない開咬状態を作ってしまうこともあります。歯は良い方向にも悪い方向にも動きます。一般歯科で簡単にできる矯正は、歯の傾きだけの受け口には功を奏することもありますが、顎のズレを検査しないで行われる治療は、高いリスクを伴っていることもご理解いただきたいです。
■シールド状マウスピースの間違った使い方で生じた開咬状態
インビザラインは歯の傾きや位置が原因で受け口が生じている場合に効果的ですが、残念ながらこちらにも骨格的な問題の解決は期待できません。そのため当院では、まず顎外装置(お口の外で使用する装置)を使って上下の顎関係の改善を優先し、その後の仕上げで前歯を綺麗に並べるためにインビザラインを用いることが多いです。顎外装置を使わないと、上顎の成長促進は行えません。
■当院(お口の外で使用する装置)は、頭から被せる大掛かりなものではなく、違和感も少ない。男の子と女の子で色を使い分けている。
写真左から/初診、改善直後,装着時の様子、お口の中の装置
【編集者】受け口の治療は、子どものときのそれと何が異なるのでしょうか。
【塩濱先生】大人になってからの治療は、歯並びをお口の中だけで改善することしかできないので、顔貌の改善は期待できません。そのため受け口特有の「下顎が出ている感じ」は残ってしまいます。
また大人になってからの受け口治療は抜歯が必要になることが多いのですが、抜歯しても前歯を下げられる距離は5mmくらいです。そのため、前歯の距離が5mmを超えていると、下顎骨を切る手術が必要になります。手術を行うと10日間ほど口を開けられないため食事は流動食になりますし、せっかく手術を行なっても治療後の後戻りや感染などのリスクもあります。このように大変なことにならないよう、適切な初期治療を適切な時期に受けていただくことを推奨しています!
【編集者】塩濱先生であれば安心して治療を始められそうです。最後に一言お願いします。
【塩濱先生】矯正専門の歯科医師は、歯科大学卒業後に、大学病院の矯正科や矯正専門の歯科医院で教育とトレーニングを受けて、知識と技術を身に付けます。そのため一般歯科の先生とは、診ている部分が異なることもしばしばあります。逆に我々矯正専門の歯科医師は、むし歯や入れ歯に関してはできないわけではありませんが、時間もかかるし、普段多く治療を行なっている一般歯科の先生の方が経験値も高いです。
そのため、私は得意ではないことを患者さんには絶対に行いませんし、それを行うのは無責任だとも考えています。逆も然りで「一般歯科であれば、むし歯治療と歯列矯正を一緒に行えて便利」と思う患者さんもいらっしゃると思いますが、矯正が得意でない歯科医院での治療はメリットが少ないだけでなく、大切な治療のタイミングを逃してしまったり、治療する前よりも悪くなるなどデメリットにもなり得ます。受け口は、特に成長の関与が大きいため、「適切な治療時期を逃すこと」は「治療のための有効な手段をみすみす逃してしまうこと」になってしまいます。
残念ながら、一般歯科で治療しても改善せずに、後になって来院される患者さんも少なくありません。そのときに感じるのは、最初から来てくれたら良かったのに・・・という思いだけです。繰り返しになりますが、「大人の前歯がもう少し揃ってから」とか「大きくなってから」というのは間違いです。
受け口に限ったことではなく、顎が小さいかも?など、保護者の方が「何かおかしいかな?」と感じたら、ご友人や一般歯科ではなく、これからの成長・発育を見据えた治療の提案ができる矯正専門の歯科医院でご相談されてください。
■矯正専門のプロ:塩濱先生に聞く歯並びの話■もっと知りたい人は下記の連載をチェック!
【連載①歯並びの話はこちら】
【連載②歯並びの話はこちら】
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診療時間/9:00~12:00、14:30~18:30
(土曜は月2回午前のみ)
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※掲載されている情報は、2023年1月以前に取材した内容です。時間の経過により実際と異なる場合があります。
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