【矯正専門のプロ:塩濱先生に聞く歯並びの話②】着脱可能で負担が少ない歯列矯正「インビザライン」と歯医者さん選びについて。
細かい調整が難しいと言われるインビザライン。適切なシミュレーションを行えば、抜歯が必要な歯並びにも対応できる。
【編集者】 前回、「インビザライン」という歯列矯正方法について教えていただきました。まずはインビザラインについて、もう一度おさらいしていただけますか?
【塩濱先生】 インビザラインは、着脱式のマウスピース型矯正装置です。食事・歯磨き時を除き、マウスピースを1日20時間以上装着します。約2週間ごとに新しいマウスピースに交換することで、少しずつ歯の位置を動かし理想の歯並びへと導いていきます。
マウスピースは透明であるため人から気付かれることはほとんどなく、装着時のストレスも少ないです。そのためインビザラインの人気はどんどん高まり、さまざまな歯科医院で治療を受けられるようになってきました。
マウスピースは透明で目立ちにくい上、着脱可能であるため食事・歯磨きなどに影響を与えない。
【編集者】 インビザラインが歯列矯正の方法として一般的になりつつあるんでしたよね。
【塩濱先生】 はい。多くの患者さんが治療を受けられるようになるのは望ましいことなのですが、一方で注意すべき問題も起きています。実はインビザラインは、歯科医師が導入のための講習を一度だけ受ければ、矯正歯科の知識の浅い一般歯科医院でも治療を行うことが可能です。中には、インビザライン治療の基盤にもなる歯型取りをも歯科衛生士に任せきりにしている歯科医院もあります。歯科医師が患者さんに合わせた点検・修正をせずに、テクニシャンが作成したシミュレーションでそのままマウスピースを作製するなど、矯正歯科を専門とする立場からすると“ずさん“と思える歯科医院も散見されます。
【編集者】 その歯科医院で適切なインビザライン治療を受けられるかどうか、という見極めが難しそうです。例えば症例数の多さなどは、歯科医院を選ぶ基準として参考になりそうですがいかがでしょうか?
【塩濱先生】 インビザラインを導入する歯科医院が増えるにつれ、「症例数が多い」などと根拠のない宣伝文句を謳う歯科医院も増えました。これを受けて「ドクターランキング制度」が導入され、その歯科医院での年間症例数がカウントされることになりました。しかし、簡単な症例ばかり手がけて症例数を稼ぎ、高評価を得ている歯科医院も少なくありません。
そのため歯列矯正に関する専門知識のない歯科医院では、難しい症例は「インビザラインでは対応できません」と言い、抜歯が必要になった場合はワイヤー矯正を勧める...ということもあるようです。残念ながら、「ドクターランキング制度」には、実際の治療内容やそのクオリティまでは反映されていません。
【編集者】 ではインビザラインなどの矯正治療を受けたいと思ったとき、具体的にどのような基準で歯科医院を選べば良いのでしょうか?
【塩濱先生】 1つは「歯列矯正を専門とする歯科医師が在籍しているかどうか」です。認知が広まってきた今こそ、インビザラインでの矯正治療を受けるときには、「どこの歯を・どの順番で・どのように動かすか」を的確にシミュレーションに反映できる歯科医師がいるかどうかが、大きなポイントになることを知ってほしいですね。
歯科医師になるための大学6年間は、むし歯や入れ歯なども含めて全ての科目を学ばなければいけないので、歯列矯正に関しては一般的な知識にとどまり、実技の取得にも時間を割けません。そのため矯正専門の歯科医師は、大学卒業後に大学病院の矯正科や矯正専門の開業医で、実技を含めたさまざまなトレーニングを受けて、初めて子どもの成長に伴う歯並びの予測や、歯がどう動くのかなどをきちんと予測できるようになります。
【編集者】 「当院でインビザライン治療ができます」と謳っているだけでは、適切な歯列矯正を行えるかどうかは判断できないのですね。ちなみに、日本矯正歯科学会 認定医である塩濱先生にお任せすべき、「難しい症例」と言われる歯並びはどのようなものを指すのでしょうか?
【塩濱先生】 重度の叢生(そうせい)、いわゆる乱ぐい歯など、歯を抜かなければいけない症例ですね。乱ぐい歯の主な原因は、あごのスペース不足です。すべての永久歯が綺麗に並ぶためのスペースが足りず、八重歯などが歯列からはみ出してしまう状況です。
【写真左】治療開始前。重度の叢生の状態【写真右】治療後。インビザラインで歯列が綺麗に整った。
インビザラインを上手に使うと、歯列の幅を広げたり奥歯を動かしたりすることがワイヤー矯正よりも簡単にできるようになりました。そのため、ワイヤー矯正全盛の時代に比べ、抜歯をせずに治る症例も増えています。ただし骨格は大きく変えられないため、やりくりを頑張ってもどうしても並ばない場合は、抜歯をしなければいけないこともあります。口元を引っ込めたい患者さんも、抜歯をした方が大きな改善が望めます。
【編集者】 しおはま矯正歯科では、難しい症例でもインビザラインで対応できるのでしょうか。
【塩濱先生】 はい。当院では、当初からガタガタのひどい患者さんにも、インビザラインで対応してきました。これはワイヤー矯正の基礎がある上に、動かして良い歯とそうでない歯の識別がしっかりできているから可能なのです。
また、インビザラインの日本導入および研究開発を率先して行なってきたのは、母校の昭和大学歯科矯正学教室(槙宏太郎教授)であり、私はそこでトラブル対処のためのさまざまなリカバリーテクニックを習得しました。時には勉強会で講演をするなど、同大学とは現在も情報交換を続けています。
確かなノウハウを持って治療に当たっているからこそ、適切なシミュレーションを作成することができ、抜歯が難しいと言われるインビザラインでも、患者さんに負担をかけずに美しい歯並びを実現できています。
【編集者】 インビザラインは良い治療法になってきているものの、使いこなすには歯科医師の技量と知識が重要なのですね。ちなみに、シミュレーション通りに歯が動かないこともあるのでしょうか?
【塩濱先生】 はい、あります。テクニシャンが作成するシミュレーションは、すべての歯を一度に動かすものが多く、これにより前歯と奥歯など一部分でしか噛めなくなってしまうトラブルも頻発しています。矯正を専門とする歯科医師でも「必ず完璧にトラブルに対応できる」というわけではありませんが、計画通りに歯が動いていない場合やトラブルに適切に対処できる可能性は高いです。
残念ながら、数回の講習会に参加しただけで「歯列矯正ができます」と謳う一般歯科もあります。そのような歯科医院では、歯が予想外の動きをしたときに軌道修正すらできないということもあります。
歯列矯正は保険適用外であるため治療費が高く、治療期間も長くなりやすいです。そのため一般歯科ではなくスキルをきちんと備えた、患者さんにとってできるだけリスクの少ない治療を行なってくれる歯科医院を選ぶことが重要です。
【編集者】 では、他院で「インビザラインでは治せない」と言われた患者さんでも塩濱先生に相談すると良いですね。
【塩濱先生】 はい、ぜひ相談していただきたいです。私は基本的にはできるだけ抜歯をしない方向で考えますが、治療にかかる期間、抜歯の有無、仕上がり等いくつかのシミュレーションやパターンを作成し、患者さんと一緒に確認しながら治療方針を決定します。加えて矯正治療は口元の美しさを追求しながら、いかに機能的な問題をも早く解決できるかが重要です。これらには歯列矯正の経験と知識の差が大きく表れることを理解した上で、歯科医院を選んでいただきたいです。
【編集者】 しおはま矯正歯科であれば、歯列矯正を安心して始められそうです。自身の歯並びに悩み来院された患者さんに対して、塩濱先生が大切にしていることがあれば教えてください。
【塩濱先生】 まず、何より患者さんとの対話を大事にしています。
当院には、「他院で歯科医師から十分な説明を受けられなかった」といった患者さんも多数来院されています。「治療費は高額なのに、スタッフにタブレットを見せられただけだった」「治療について歯科医師と話すこともなく、全然わからなかった」という声も聞いています。
矯正を専門とする歯科医院であっても、初診の相談や検査、装置の使い方の説明などはスタッフが対応し、最後だけ歯科医師がチェックするというところも少なくありません。これは法律で許されることであったとしても、治療のクオリティが下がることは否めません。矯正治療は保険適用外で、患者さんに高額な費用を支払っていただくもの。それなのに、効率ばかりを優先して、患者さんに納得していただけるのでしょうか?当院では、初診の相談から検査、および毎回の治療もすべて私が担当し、スタッフに手伝わせることは一切ありません。
また私は患者さんの様子を見ながら説明方法を変えたり、治療上大切なところを繰り返しお話ししたりしています。このように十分な説明を受けたことで、お悩みの方でも次回の検査予約を即決されています。
【編集者】 治療開始前の時間も大切にされているのですね。
【塩濱先生】 その通りです。矯正治療は、患者さんと歯科医院あるいは歯科医師の長いお付き合いになります。そのために私は患者さんとのコミュニケーションを大切にしており、治療の合間に休日遊びに行ったときの話や学校での様子、子育てについてなど幅広くお話しさせていただいています。これは単に世間話をするためだけではなく、限られた時間の中で可能な限り患者さんと対話し、信頼関係を築いていきたいからなのです。
治療に関する説明のための専用相談ルーム。カウンセリングに力を入れているため、小さな不安や心配事なども遠慮なく相談できそうだ。
歯科矯正は歯科医師が技術・知識をしっかり持っていることは大前提ですが、患者さんの協力があっての治療でもあります。だからこそ信頼関係の構築も重要です。
私は「終わりよければ全てよし」ではなく、患者さんの歯並びが良くなっていくプロセスなど、一つひとつを大切なご縁と考え、皆さんの毎日が幸せなものであるようお役に立ちたいと考えています。
【編集者】 歯列矯正では結果や見た目の良さを追い求めるだけでなく、その過程や機能面に対してどこまで配慮できるかも重要ということですね。
次回は、悩みが多いお子様の受け口(うけくち)の治療について教えていただきます。
■矯正専門のプロ:塩濱先生に聞く歯並びの話■もっと知りたい人は下記の連載をチェック!
【連載①歯並びの話はこちら】
医療法人社団 しおはま矯正歯科
石川県金沢市寺地1-20-20
TEL/076-245-8755 (※予約制)
診療時間/9:00~12:00、14:30~18:30
(土曜は月2回午前のみ)
休診日/水曜、日曜、祝日
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※掲載されている情報は、2022年11月以前に取材した内容です。時間の経過により実際と異なる場合があります。
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