【農援ラボ|てらにしファーム】自分が携わることで、農業に関心を持ってくれる人がひとりでも増えてくれたらうれしい
2025年4月10日(木) | テーマ/エトセトラ


4年前まで調剤薬局で医療事務の仕事をしていた寺西知子さん。実家は兼業農家で、農業が身近にある中で育ったものの、3児の母でもある自分が農業をするとは想像もしていなかったそう。寺西さんには障がいのある娘さんがいて、学校の送迎や通院など、仕事を急に休まないといけないこともあり、自分に向いた働き方を探していた。
時間の融通が利き、「子どもの将来にもつながることはないか?」と考えていた時、ご自身が子どもの頃に畑に行って楽しかったことを思い出し、子どもたちにも同じ経験をさせてあげたいと思うようになったそうだ。

「離農はしていたものの農地が少し残っていたことが大きかったです」と、寺西さんは当時を振り返る。農業はすごく大変だということも知っていたので、まずは県の石川農林総合事務所へ相談に行き、「いしかわ耕稼塾」という石川県の農業学校があることを知る。また、「本当に自分にできるのか?」と不安もあったので、近所の農家さんに頼んで作業を手伝わせてもらったりもした。
いしかわ耕稼塾では、5人の生徒の中で女性は寺西さん一人だった。
「学校までは片道1時間もかかり、それが大変でした。でも、思いを同じくする仲間がいたから乗り越えられました。今も時々連絡を取り、皆の一所懸命にやっている話を聞くと、私も頑張らなくちゃと励みにしています」
週5日を1年間、無事学び終えたが、技術的に一人でするにはまだ不安があった。そんな時、独立して就農するための実践研修を行う雇用就農を紹介してもらい、白山市の農園で2年間、ガラス温室1棟を任されて、トマトとキュウリと葉物を作ることになった。

「白山市の農園でなんでも相談できる農業の先輩方と出会うことができ、またトマトやキュウリの部会の方々とも知り合えました」
いしかわ耕稼塾で認定新規就農者のことを知り、野々市市で第1号となる認定新規就農者となったのが、2024年の3月。審査を受けるためには5年間のしっかりとした計画を立てなければならず、支援いただいた方といろいろ相談しながら、書類の準備をした。
「準備は大変でしたが、それによって私に本当に技術や気持ちが備わっているかも試されているように感じました。でも、このおかげで前向きに取り組むことができたんです」

現在、1棟のハウスがすでに建っており、残り3棟のハウスが建設中となっている。
「ハウスの建設に関しても、たくさんの方が助けてくださり、とても感謝しています。そういった出会いがなかったらここまで進められなかったと思います」

昨年は、キャベツや白菜、ブロッコリー、タマネギなど露地栽培が中心だったが、今年からはビニールハウスで、春から夏にトマト、夏から秋にキュウリ、秋から冬に葉物を追加する予定。また、タマネギは、野々市市の学校給食へ出荷する予定で、地産地消や食育にも貢献している。
農業は例えば夏場だと、早朝や夕方の作業が中心となり、子育てのピークの時間帯と重なる。「その時間をうまく農業と絡めて生活の一部にしていかないと回らなくなります」というが、寺西さんの場合、「自宅から数分のところに畑があるメリットも大きい」と付け加える。

子育てしながらの農業はとにかく大変だが、良いこともあるという。
「子どもを畑に連れてきて、一緒に収穫したり、働いている姿を見せたりすることもできます。普段は食べない野菜も『自分で採ったものだし食べてみようかな』となったりもします。会社員の時は就業時間に追われていましたし、子どもたちに我慢させていた部分がありました。今は体力的にはしんどいですけど、気持ち的にはすごく楽でいられます。子どもと接する時間も増えましたし、そこはすごく良かったと思っています」
寺西さんは将来、農園が障がいのある娘さんと一緒に働ける場になればと考えている。娘さんは収穫を手伝えば喜ばれることや、お小遣いをもらって働くことでお金が得られることもわかってきたそうだ。苦手なことがあっても、できることもたくさんあり、自分が必要とされて働ける場にもなれる。それも農業の懐の広さだ。
「農福連携により、障害のある方の可能性を広げるお手伝いをしたいという夢を持っていますが、その前にまずは自分の農園を軌道に乗せるのが先。一歩ずつ着実に進んでいこうと思っています」

それからもうひとつ、寺西さんは自分のような子育て世代が農業に取り組むことによって、いろんな世代の方に興味を持ってもらうきっかけにしたいという思いを持っている。
農業を知ってもらう機会の試みとして、インスタグラムで呼びかけて、小松菜の収穫体験を行った。参加者は想像した以上に喜んでくれて、農業の可能性を改めて知り、自分も元気をもらったそうだ。
「子どもたちは目をキラキラさせながら収穫を体験していました。参加された方の中から、私も農業をやりたいという人が出てきてくれたらうれしいです。特に子育て中の方なら、大変さもわかっているので一緒にやれたら何よりです」
今後もいろいろな収穫体験を企画していく予定だそうだ(てらにしファームのインスタグラムで募集)。
「子どもたちに、どんなふうに野菜を作っているかを知ってもらうことで、作り手を意識して大事に食べてくれるようになってくれたらうれしい」という寺西さん。その存在は、高齢化と就農者の人口減少が止まらない農業界の未来を照らす、一筋の光明であることは間違いない。

■てらにしファーム
住所/石川県野々市市下林
公式Instagram https://www.instagram.com/farm_teranishi