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【農援ラボ|家族野菜tsugutsugu】ふるさとに新たな風を吹き込む、農薬・化学肥料不使用の野菜づくり

2025年1月7日(火) | テーマ/エトセトラ

農援ラボ
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北陸の豊かな暮らしを農と食から考えるサイト『農援ラボ』です。 野菜作りにこだわりを持っていたり、珍しい生産方法をされていたりと、北陸で何かと話題の農家さんを紹介します。 北陸の注目農家についてはもっと知りたい方はこちら。
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待ち合わせは石川県小松市の岩上町。「神社を目指して来てください」という電話越しの指示を頼りに車を走らせると、目的地のすぐ手前で畑仕事に精を出す人物の姿を捉えた。もしやと確認すると、予想通り電話の声の主。家族野菜tsugutsuguの北出高嗣(たかつぐ)さんだ。

「母の実家がこの岩上町で、子どもの頃によく遊びに来ていたんです。ここは本当に小さな集落で、自然が豊かで水もきれい。街灯もないので夜は星がきれいですし、ホタルも見ることができますよ」

さつまいもの収穫を終えると、北出さんは畑の周りを案内しながら集落のあらましを教えてくれた。

10年前まで地元企業の広告営業の仕事に携わっていた北出さん。会社の立ち上げから関わり、やりがいに満ちた仕事ではあったが、その生活は少なからず子どもや家族と過ごすべき時間の犠牲のうえで成り立っていた。「果たしてこのままでいいのだろうか」。自身の生活を省みるなか、あるセミナーで同年代の個人農家に出会ったことが北出さんのターニングポイントとなった。

「その人はとても情熱があって、こんな農家もおるんやなと驚いて。仕事柄、“手に職”系の人と知り合う機会が多くて、営業職だった自分はどこかで彼らに憧れを抱いていたんですよね」

真剣に就農を検討するようになった北出さんは、「農業では食べていけない」という周囲の声にも臆することなく退社を決意。岩上町で有機栽培野菜を手掛ける西田農園の門を叩き、その2年後の2016年に独立を果たした。まずは地元である同市の中海町で野菜づくりをスタート。後に愛着ある岩上町にも畑を確保し、現在は2拠点で生産を行っている。

tsugutsuguの特徴は、農薬・化学肥料不使用であること。その要となる天然由来の肥料は中海町の農舎で自家製造している。農舎の入り口に鎮座する巨大な機械が北出さんの相棒だ。

「これは農機具屋から譲ってもらった撹拌機。米ぬかや魚かす、菜種の油かすなどを撹拌して、樽に詰めて3〜6ヵ月発酵させれば肥料になります。ちょっと匂いを嗅いでみますか?」

北出さんは樽のひとつを手に取ると、蓋を開けておもむろに中の肥料を手ですくい上げた。恐る恐る鼻を近づけると、思いのほかフルーティーでさわやかな香り。「そう、発酵すると青りんごのような匂いになるんです」と北出さんはうなずいた。

撹拌機は一度に1tまで投入でき、自身の畑をまかなうだけであれば3日も稼働させれば1年分の肥料をこしらえることができてしまう。少しでも余力を活かそうと始めたのが、家庭菜園用の肥料販売。野菜と異なり備蓄が可能な肥料は使い勝手もよく、いずれ収益の柱になればと北出さんは期待を寄せる。

経験の浅い個人農家にとって収益の確保はたやすいことではない。北出さんも就農当初は全くの手探りで、まずは少量多品種を栽培し、生産性やマーケット需要への知見を蓄積するなかで徐々に栽培作物を選別していった。岩上町で栽培しているさつまいもは、肥料が少なくてもよく育つtsugutsuguの主力野菜。中海町で取り組んでいるハウス栽培のトマトにも手応えを感じているという。

「うちの子どもが好きな野菜であることが栽培の条件」と北出さん。そうした仕事と“私事“の境目をあえてはっきりと設けないスタイルは、コロナ禍以前に北出さんが注力していた自主イベント開催など、農家の枠組みを超えた自由な活動にも通じるものがある。その根底にあるのはトライ・アンド・エラーの精神と遊び心だ。

「仕事であっても『どうやったら楽しめるか』を忘れたくない。中海町で開催したイベントもそう。『田舎の農地を守らないといけない』というのはもっともな意見だけど、まずは人を集めて、そのうえで農業に関心を持ってもらえればいいという思いから始めたんです」

独自のアプローチで地域の農業をもり立てるtsugutsugu。その最大の試練となったのは、2022年の夏に中海町で発生した洪水被害だ。川沿いにあった圃場には大量の土砂やがれきが流れ込み、収穫を目前に控えた夏野菜はすべて一日で失われてしまったのだ。

「洪水のダメージはいまだにあって、せっかく改良を続けてきた土壌が以前とは変わってしまった。ゼロどころかマイナス。いまになってようやく少しだけ戻ってきたというくらいの状況です」

コロナ禍での取引先の減少やイベントの開催自粛など、苦しい時期を乗り越えた矢先の大災害。それでも「起こってしまったものは恨んでも仕方ない」と、北出さんは歩みを止める道を選ばなかった。

「農業を辞めていく人は自分を追い込むタイプが多い。これをやらなければならないなんて、案外自分が勝手にそう思っているだけ。駄目なら違うことをすればいいんです」

理想と現実のギャップを前に、いかに自分自身が変化し、適応していくか。北出さんのその人生哲学は、今後待ち受ける岐路においてもきっと自らに救いの手を差し伸べてくれるだろう。


■家族野菜tsugutsugu(ツグツグ)
住所/石川県小松市中海町12号198-3
公式サイト  https://tsugutsuguyasai.stores.jp/

※掲載されている情報は、2025年1月7日以前に取材した内容です。時間の経過により実際と異なる場合があります。

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