左上/「偶然」より、小川待子《Untitled》1993年、左下/「反復×偶然」より小松誠《Crinkle Series スーパーバッグ K1、K2、K3》1975年、右/小松誠《Crinkle Series outline》1979年
こんにちは、金沢日和編集部・ちょっぴりベテランとらこです。
金沢日和のハリキリ裏番長から「編集者たるもの連載を持つべき!」「とらこさんは美術系担当して!」と命令が下りました。仕事の合間に美術館やギャラリーに立ち寄ってはリフレッシュしていたのがバレたようです。「サボっているぐらいなら仕事にしなさい」ということなのでしょう。命じられたからにはやりますとも。アートやクリエイティブが好きというだけの完全なる美術素人ですが、金沢や石川県のいろんな美術の魅力に触れてその魅力をお届けできたらと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。
上段/「反復」より、石田亘《パート・ド・ヴェール蓋物 白寿》2000年、下段/「反復×偶然」より島岡達三《塩釉象嵌縄文大皿》1988年
今回は、国立工芸館で2月24日まで開催されている「反復と偶然展」のご紹介をします。実は、2024年の12月初旬に記者発表会に参加させていただき、ずっと紹介したいなと思い続けていたのですが締め切りに追われているうちに1ヶ月が経ってしまいました。アメリカの政治家の名言に「今日できることを明日に延ばすな」がありますが、我が家ではこれをアレンジして「明日やろうはバカやろう」を家訓としていいます。全然守ってないので、今年の行動指針として肝に銘じます。
さて。「反復と偶然展」については洗練されたポスターをご覧になった人も多いかと思います。素敵過ぎて若干敷居の高さを感じる人もいるのでは、とも思うのですが、国立工芸館は実はとってもフレンドリー。なにせ所蔵作品展の場合は入館料が300円(一般個人)で観覧できる上、無料駐車場も近隣にたくさんあります。
記者発表会当日。新聞社各社、美術専門誌のライターなどが集まった。
お邪魔すると最初に三木敬介主任研究員による展覧会の説明がありました。三木さんはデザインを専門にされてきた学芸員で、今回は「工芸をデザインという観点から構成した展覧会」とのこと。
記者発表の前に自由に観覧できる時間があったため、「あの作品のことか!」「なるほどー!」とワクワク思い返しながら拝聴しました。「そもそも反復とは」「偶然とは」という説明は、わかっているつもりの概念が大きく広げられる感覚がありましたよ。
学生時代にこんな風に教えてもらえていたら、きっと私ももっと賢くなれたはずです。いえ、先生はきっと真摯に教えてくださっていたのでしょう。教えや情報や愛情を当たり前と思っていた若き自分の傲慢さに残念な思いが募ります。
日常の中にあるパターンに気付かされる展示。左上/江里佐代子《截金六角組飾筥 六花集香》1992年、 左下/ヴィルヘルム・ヴァーゲンフェルト《容器 キューブ》1938年、右/芹沢銈介《筍文茶地麻部屋着》1958年
まずは「反復」がテーマの展示室1からスタート。パターン模様が美しい絣の着物や、どこまでもスタッキングできそうなコップ、パズルのように組み合わせられる一定の形状を保った器など、日常の用具が展示されています。
ガラスとは思えない半透明の柔らかな作品。真っ白でモダンな菊花紋様は和洋も時代の垣根も越える美しさ。石田亘《パート・ド・ヴェール蓋物 白寿》2000年
なんだこれ、きれいだなー。遠くから見ても、近くからみてもきれいだなー。とボキャブラリーセンス皆無の感想ですが美しいものをそれ以上の言葉で語るのは無理というもの。感じたままに楽しみましょう。
栄木正敏《WAVE》1986-87年
一定の規則によって整然と繰り返される紋様や形状は見つめていると無限の広がりを感じます。普段使いのものこそリズミカルに美しくありたいものだと我が家を振り返りながらしみじみ。
中川衛《象嵌朧銀花器 「チェックと市松」》2020年
以前、拝見したことのある石川県が誇る象嵌作家・中川衛さんの作品もありました。「イギリスの展覧会に出品する時に作ったものでタータンチェックをモチーフにしたんだよ」とおっしゃっていたものです。展覧会のテーマが変わると見え方が変わるのが面白いですね。
齋田梅亭《截金菜華文小筥》1963年
ちなみに、エントランスから展示室に行く途中の部屋「工芸とであう」にある3D鑑賞システムでは、いくつかの代表作品の画像を拡大したり裏側を見たりできるのですが、今回は鑑賞システムで紹介されている作品の一つがお目見えしていました。3Dで触れたあの作品の本物がある!と妙にテンションがあがりました。
3D鑑賞システムを体験してから実物を鑑賞すると感激もひとしお。
続いて「偶然」をテーマにした展示室2へ。先ほどの規則性に満ちた美しさとはうってかわって、偶然がもたらす再現性のない形がなんとも面白い! 目は釘付け、心鷲掴みの作品だらけです。私は基本的にきちんとしたことが苦手で、人智の及ばない予測制御できないものに惹かれる質(たち)。
小川待子《Untitled》1993年
力の加減や歪みなどコントロールが及ばない偶然が産んだ魅力的な作品に、私の中の原始的な何かがぐわんぐわんと揺さぶられるような気持ちになります。アイコン作品となっている「小川待子《Untitled》1993年 国立工芸館蔵」がお目見えすると興奮しました。一言で表すとめちゃくちゃかっこいいです。なんて美しい!なんてクール!うつわのはずなのですが、拡散と収縮、冷静と激情が同居するような佇まい。命が生まれる瞬間にさえ見えます。
西村陽平《トースター》1988年
こちらはトースターと土を組み合わせた陶芸作品です。「焼成して作品化する」ということらしいのですが、焼くための道具が焼かれてしまい、焼き上げることでなんとも不思議な物体に変化してしまいました。「焼成というプロセスを経ることで素材の違いが際立ち、そのものの特徴が見えてくるんだな」など普段考えたこともないようなことを考える時間となりました。
展示室2の前に「芽の部屋」なるスペースがあるのですが、こちらは展示室2を見終わった後に見るのがおすすめだそうです。アクセント的な空間となっており、グラフィックの巨匠たちの作品が並びます。
芽の部屋 展示風景
これには「昔はAIもなく、コンピューターグラフィックもなく、同じものを繰り返すのも人為的に行われていた。人の個体差が微妙に感じられる妙味を感じてほしい」という意図があるようです。実は国立工芸館はグラフィックデザインの収集においては日本屈指! 編集者になった当初、一生懸命勉強した巨匠の作品がありました。その力強さに圧倒されたり、かつての自分の情熱を思い出したり、と心が熱くなりました。
「デザインは繰り返す」と題し、ポスターなどを展示
最後に展示室3へ。展覧会タイトルの「反復と偶然」をテーマに、両方の要素を内包した作品が並んでいます。
一見同じ模様やかたちの繰り返しのようでも微妙に異なっていたり、偶然のようでも計算されつくしていたり、と反復と偶然を分けることの難しさや、共存することで生まれる新たな表現が魅力的です。
左上/鈴木治《フタツの箱》1964年、左下/飯塚琅玕齋《花籃 あんこう》1957年、右/生田丹代子《揺-39》1992年
「反復」と「偶然」というテーマがあることで、作品が持つ面白さに自分で気づくことができます。「ここが反復ね!」「これが偶然ね!」と確認しながら鑑賞することで、特性が作品にどう使われているかを見つける面白さに出会えます。アートにハードルの高さを感じている人も楽しみやすい展覧会ですよ。
最後におまけ情報です。ポスターの「反復と偶然展」の文字に、偶然にも派生してしまった遊びが演出されています。見つけてみてくださいね。
「反復と偶然展」概要
会期/〜2月24日まで
場所/国立工芸館 石川県金沢市出羽町3-2
TEL/050-5541-8600(ハローダイヤル)
開館時間/9:30〜17:30 ※入館は17:00まで。
休館日/月曜(ただし、2月24日は開館)
観覧料/一般300円、大学生150円、高校生以下および18歳未満、65歳以上、障害者手帳をお持ちの方と付添者1名は無料。
P/あり (近隣文化施設との共用駐車場)
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