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【編集者とらこの金沢アート探訪】国立工芸館で開催中の「反復と偶然展」、おすすめです!

2025年1月27日(月) | テーマ/エトセトラ

左上/「偶然」より、小川待子《Untitled》1993年、左下/「反復×偶然」より小松誠《Crinkle Series スーパーバッグ K1、K2、K3》1975年、右/小松誠《Crinkle Series outline》1979年

こんにちは、金沢日和編集部・ちょっぴりベテランとらこです。

金沢日和のハリキリ裏番長から「編集者たるもの連載を持つべき!」「とらこさんは美術系担当して!」と命令が下りました。仕事の合間に美術館やギャラリーに立ち寄ってはリフレッシュしていたのがバレたようです。「サボっているぐらいなら仕事にしなさい」ということなのでしょう。命じられたからにはやりますとも。アートやクリエイティブが好きというだけの完全なる美術素人ですが、金沢や石川県のいろんな美術の魅力に触れてその魅力をお届けできたらと思います。

どうぞよろしくお願いいたします。



上段/「反復」より、石田亘《パート・ド・ヴェール蓋物 白寿》2000年、下段/「反復×偶然」より島岡達三《塩釉象嵌縄文大皿》1988年

今回は、国立工芸館で2月24日まで開催されている「反復と偶然展」のご紹介をします。実は、2024年の12月初旬に記者発表会に参加させていただき、ずっと紹介したいなと思い続けていたのですが締め切りに追われているうちに1ヶ月が経ってしまいました。アメリカの政治家の名言に「今日できることを明日に延ばすな」がありますが、我が家ではこれをアレンジして「明日やろうはバカやろう」を家訓としていいます。全然守ってないので、今年の行動指針として肝に銘じます。

さて。「反復と偶然展」については洗練されたポスターをご覧になった人も多いかと思います。素敵過ぎて若干敷居の高さを感じる人もいるのでは、とも思うのですが、国立工芸館は実はとってもフレンドリー。なにせ所蔵作品展の場合は入館料が300円(一般個人)で観覧できる上、無料駐車場も近隣にたくさんあります。


記者発表会当日。新聞社各社、美術専門誌のライターなどが集まった。

お邪魔すると最初に三木敬介主任研究員による展覧会の説明がありました。三木さんはデザインを専門にされてきた学芸員で、今回は「工芸をデザインという観点から構成した展覧会」とのこと。

記者発表の前に自由に観覧できる時間があったため、「あの作品のことか!」「なるほどー!」とワクワク思い返しながら拝聴しました。「そもそも反復とは」「偶然とは」という説明は、わかっているつもりの概念が大きく広げられる感覚がありましたよ。

学生時代にこんな風に教えてもらえていたら、きっと私ももっと賢くなれたはずです。いえ、先生はきっと真摯に教えてくださっていたのでしょう。教えや情報や愛情を当たり前と思っていた若き自分の傲慢さに残念な思いが募ります。


日常の中にあるパターンに気付かされる展示。左上/江里佐代子《截金六角組飾筥 六花集香》1992年、 左下/ヴィルヘルム・ヴァーゲンフェルト《容器 キューブ》1938年、右/芹沢銈介《筍文茶地麻部屋着》1958年

まずは「反復」がテーマの展示室1からスタート。パターン模様が美しい絣の着物や、どこまでもスタッキングできそうなコップ、パズルのように組み合わせられる一定の形状を保った器など、日常の用具が展示されています。


ガラスとは思えない半透明の柔らかな作品。真っ白でモダンな菊花紋様は和洋も時代の垣根も越える美しさ。石田亘《パート・ド・ヴェール蓋物 白寿》2000年

なんだこれ、きれいだなー。遠くから見ても、近くからみてもきれいだなー。とボキャブラリーセンス皆無の感想ですが美しいものをそれ以上の言葉で語るのは無理というもの。感じたままに楽しみましょう。


栄木正敏《WAVE》1986-87年

一定の規則によって整然と繰り返される紋様や形状は見つめていると無限の広がりを感じます。普段使いのものこそリズミカルに美しくありたいものだと我が家を振り返りながらしみじみ。


中川衛《象嵌朧銀花器 「チェックと市松」》2020年

以前、拝見したことのある石川県が誇る象嵌作家・中川衛さんの作品もありました。「イギリスの展覧会に出品する時に作ったものでタータンチェックをモチーフにしたんだよ」とおっしゃっていたものです。展覧会のテーマが変わると見え方が変わるのが面白いですね。


齋田梅亭《截金菜華文小筥》1963年

ちなみに、エントランスから展示室に行く途中の部屋「工芸とであう」にある3D鑑賞システムでは、いくつかの代表作品の画像を拡大したり裏側を見たりできるのですが、今回は鑑賞システムで紹介されている作品の一つがお目見えしていました。3Dで触れたあの作品の本物がある!と妙にテンションがあがりました。


3D鑑賞システムを体験してから実物を鑑賞すると感激もひとしお。

続いて「偶然」をテーマにした展示室2へ。先ほどの規則性に満ちた美しさとはうってかわって、偶然がもたらす再現性のない形がなんとも面白い! 目は釘付け、心鷲掴みの作品だらけです。私は基本的にきちんとしたことが苦手で、人智の及ばない予測制御できないものに惹かれる質(たち)。


小川待子《Untitled》1993年

力の加減や歪みなどコントロールが及ばない偶然が産んだ魅力的な作品に、私の中の原始的な何かがぐわんぐわんと揺さぶられるような気持ちになります。アイコン作品となっている「小川待子《Untitled》1993年 国立工芸館蔵」がお目見えすると興奮しました。一言で表すとめちゃくちゃかっこいいです。なんて美しい!なんてクール!うつわのはずなのですが、拡散と収縮、冷静と激情が同居するような佇まい。命が生まれる瞬間にさえ見えます。


西村陽平《トースター》1988年

こちらはトースターと土を組み合わせた陶芸作品です。「焼成して作品化する」ということらしいのですが、焼くための道具が焼かれてしまい、焼き上げることでなんとも不思議な物体に変化してしまいました。「焼成というプロセスを経ることで素材の違いが際立ち、そのものの特徴が見えてくるんだな」など普段考えたこともないようなことを考える時間となりました。

展示室2の前に「芽の部屋」なるスペースがあるのですが、こちらは展示室2を見終わった後に見るのがおすすめだそうです。アクセント的な空間となっており、グラフィックの巨匠たちの作品が並びます。


芽の部屋 展示風景

これには「昔はAIもなく、コンピューターグラフィックもなく、同じものを繰り返すのも人為的に行われていた。人の個体差が微妙に感じられる妙味を感じてほしい」という意図があるようです。実は国立工芸館はグラフィックデザインの収集においては日本屈指! 編集者になった当初、一生懸命勉強した巨匠の作品がありました。その力強さに圧倒されたり、かつての自分の情熱を思い出したり、と心が熱くなりました。


「デザインは繰り返す」と題し、ポスターなどを展示

最後に展示室3へ。展覧会タイトルの「反復と偶然」をテーマに、両方の要素を内包した作品が並んでいます。
一見同じ模様やかたちの繰り返しのようでも微妙に異なっていたり、偶然のようでも計算されつくしていたり、と反復と偶然を分けることの難しさや、共存することで生まれる新たな表現が魅力的です。


左上/鈴木治《フタツの箱》1964年、左下/飯塚琅玕齋《花籃 あんこう》1957年、右/生田丹代子《揺-39》1992年

「反復」と「偶然」というテーマがあることで、作品が持つ面白さに自分で気づくことができます。「ここが反復ね!」「これが偶然ね!」と確認しながら鑑賞することで、特性が作品にどう使われているかを見つける面白さに出会えます。アートにハードルの高さを感じている人も楽しみやすい展覧会ですよ。

最後におまけ情報です。ポスターの「反復と偶然展」の文字に、偶然にも派生してしまった遊びが演出されています。見つけてみてくださいね。

「反復と偶然展」概要
会期/〜2月24日まで
場所/国立工芸館 石川県金沢市出羽町3-2
TEL/050-5541-8600(ハローダイヤル)
開館時間/9:30〜17:30 ※入館は17:00まで。
休館日/月曜(ただし、2月24日は開館)
観覧料/一般300円、大学生150円、高校生以下および18歳未満、65歳以上、障害者手帳をお持ちの方と付添者1名は無料。
P/あり (近隣文化施設との共用駐車場)

国立工芸館の詳しい記事はこちら


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こんにちは、金沢日和編集部・台湾出身のkumaです。 連載「kumaの金沢散歩」を担当し、日々、様々な発見をして楽しく過ごしています。わたしにとっての新発見もあるけれど、地元の方にとっては金沢の再発見につながることもあるそうです!これからも、魅力あふれるこの土地を一緒に巡り続けられると幸いです。 どうぞよろしくお願いいたします。 金沢にはちょっと変わったお守りが登場するお寺があると聞いて、半信半疑で行ってみたら、想像以上に面白かったです。「デブ封じ」、「推活成就」、「肩凝退散」など、たった4文字に今のトレンドや日常の切実な願いを閉じ込めた、珍しいお守りがたくさんありました。 約70もの寺社が集まっている寺院群『寺町』の近くに位置する『香林寺』は、願掛け寺として知られています。タスキに願いごとを記載し、庭にある自分の十二支像に掛けると、1年以内に願いが叶うと言われているそうです。毎年9月下旬~10月上旬に白い彼岸花の群生が見られることでも有名ですよ。 入り口の門をくぐると、民家らしき建物が目に映りますが、間違いなく香林寺です。玄関近くでお出迎えしてくれるわんちゃんの石像の衣がおしゃれでかわいいので、ぜひ見てみてくださいね。 本堂内には、子どもを思う慈愛に満ちたお地蔵さん「幸福地蔵菩薩」や、1833年(天保4年)に造られた不動明王「開運霊薬不動」の尊像があります。加賀友禅作家で唯一の人間国宝・木村雨山氏が若い頃、『香林寺』に停泊していた折に残された80点ほどの作品も展示しています。 また、能面士・平井杢侃(ひらいもっかん)氏の能面が60点以上飾られており、部屋に踏み込むと圧倒されてしまいそうです。丁寧に仕上げられた能面を一つ一つを間近で見ることができるほか、それぞれの面に込まれた想いや意味の解説が書いてあるので、ぜひ能面の奥深さを堪能しましょう。 そして、今のトレンドや、日常の中にある悩み、叶えたいことなどがお守りになって登場し、その数はなんと40種類ほどあるそうです。「美女転生」、「シワ退散」、「ハゲ封じ」など、目眩がしそうなほど数々の願いを込めたお守りが一斉に並ぶと壮観ですね。推し活に励むわたしは、大人気の「推活成就」を選びました。当日の最後の一点だったそうです。無事買えた運も含めて、これからの推し活もきっと成就すると信じます。大人気の珍しいお守りシリーズは不定期で新作も出るので、ぜひ見に来てくださいね。 本堂拝観後は、お庭巡りに参りましょう。十二支像に掛けられたタスキを眺めながら、願いに満ちた「幸福の道」を3周巡り、願いをこころから伝えてみてはいかがですか。「幸福の道」には、十二支像のほか、羅漢像や沢山の可愛らしいお地蔵様も安置されているので、探してみてくださいね。 お庭の竹林の中には、出世達磨(達磨禅師)がいらっしゃいます。この出世達磨の口の中へ「願い玉」(五個一口)を投げ入れて、五個のうちに一個でも入ると、出世と金運が上がると伝われているそうですよ。こころから願いを込めて、ぜひ挑戦してみましょう。 閑静な『香林寺』は、雨の日は観光スポットの穴場としても知られており、とっておきの傘を広げてお庭巡りを楽しめます。彼岸花が咲く時期には、期間限定の名物「十二支団子」を楽しめる「彼岸花まつり」開催のほか、夜にはライトアップを実施するので、秋にもぜひ行ってほしいです。 ■香林寺 住所/石川県金沢市野町1-3-15 TEL/076-241-3905 拝観料/大人500円、中学生以下400円、団体60名以上400円 参拝時間/9:00~17:00 定休日/不定休 駐車場/10台 ※車の出入り口(山門)はそれほど広くはないため、大型車の場合は特にご注意ください。 公式サイトはこちら 公式Instagramはこちら ■担当している海外SNSはコチラ☆ 小紅書(RED)|簡体字中国語(中国) Facebook中国語|繁体字(台湾/香港) Facebook英語

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