【農援ラボ|井口グリーンワークス】商品開発と地域づくり。集落営農の強みを生かした農業の可能性
2024年11月21日(木) | テーマ/エトセトラ
金沢市中心部から白山麓の玄関口にあたる鶴来地区までを結ぶ北陸鉄道石川線。その途中駅である井口(いのくち)駅を最寄りとする白山市の井口地区は、山すそ近くの、住宅地と農地とがほどよく混在した平野にある。
「井口はもともと小規模な兼業農家が米作りをやっていた地域なんです」と話すのは、井口グリーンワークス代表の北村真一さん。自身も兼業農家の家庭に生まれ、社会人になってからは親と同じく兼業農家として農業に携わってきたという。
転機が訪れたのは2001年、減反政策に伴い稲作からの転作を国やJAが推進するなかで、前身となる井口町転作組合を設立したことに端を発する。大豆などの転作圃場(ほじょう)を団地化し、農地を集約したうえで集落の農家が共同で管理・運営を行い、経営の合理化を図る「集落営農」化が転作組合設立の目的。そしてこの仕組みを稲作に応用すべく2003年に生まれたのが、井口グリーンワークスというわけだ。
「世代の差というか、私の父親の世代は集落営農に対していい顔をしなかったんですよね。農地が共同所有になることへの抵抗感がありましたから。私たちの世代は割と前向きだったものですから、まあ親の顔を見ながらね」。穏やかな笑みを浮かべながら、北村さんは設立前夜の苦労を語った。
法人化した2008年には作業効率化によって生まれた空き時間を有効活用して野菜づくりを開始。さらに特別栽培米の自組合ブランド「白山銀嶺(ぎんれい)米」の生産にも乗り出した。白山銀嶺米は、卵の殻を原料とした有機石灰で土壌改良した田んぼで栽培し、昨年のつくば分析センターの食味検査では全国2位の成績を収めた自慢の米だ。
「人と同じことをするのは面白くなくてね」と北村さん。聞けば用水路の排水を制御する間仕切り板も自作の発明品を用いているとのこと。井口グリーンワークスの持続的な成長も、北村さんの柔軟な発想に支えられてきた部分がおそらく大きいのだろう。
大豆や玄米を主原料にした「ソイージー」なる加工商品も、「ジャズバーでお酒のつまみとして出てくるようなものを」という北村さんのひらめきから生まれたものだ。そのアイデアを具現化した娘の亜沙美さんは、商品開発のプロセスを次のように振り返る。
「加工品をつくるのであれば、原材料は季節が限られる野菜ではなく、大豆や玄米といった通年ある素材を使おうというのが最初にあって。それから食べやすい細長い形で、焼き菓子にして、健康にも気遣ったものを……と考えていきました。パッケージはあえて目立たせず、女性がバッグから取り出しても浮かないような、落ち着いたデザインをイメージしました」
意識的に取り組んだアレルギー対応も功を奏しているという。ソイージーはメインターゲットの30〜40代女性とともに、小麦アレルギーを抱える消費者にもヒット。続いて商品化した、卵を使わず濃厚豆乳でつくられた「白山ふわとろ大豆マヨ」も、代替マヨネーズを求める消費者の需要をうまく掘り起こした。
商品づくりのノウハウを学ぶため、井口グリーンワークスを一時離れて洋菓子店に勤務した経験を持つ亜沙美さん。2年間の修業を終えて戻ってきたあとも積極的に支援団体などが開催する6次化研修に参加したが、なかでも強く記憶に残るのは「売りたいものと、売れるものは違う」という教え。独りよがりになりがちな商品づくりを律する重要な指針となっているという。
時代の流れを冷静に見極め、集落営農へと舵を切って約20年。いま北村さんが必要性を強く感じているのが地域のつながりだ。
「昔と比べると井口地区の住民は新旧混在で、同じ町内であってもコミュニケーションが希薄になっている」と北村さん。地域の農業は、地域のつながりという土台があってはじめて成り立つ。そうした理念のもと、井口グリーンワークスの取り組みの中心に据えられているのが地域活動だ。石川県食育推進計画の認定団体「いのくち遊美の里会」とタッグを組んだ、地域の子どもたちを対象とした食育活動は、その最たる例だろう。
「子どもたちには田植えや稲刈り、餅つきなどを体験してもらうんです。すると子どもをきっかけとして大人たちも集まって、新たなコミュニケーションがそこに生まれる。結果として私たちが地域をつなぎとめる存在になっているのはうれしいことですね」
地域をつなぐツールとしての農業。そのように見方を変えれば、地域活動と集落営農はとても親和性が高いことがわかる。合理化の手段としての集落営農から、地域づくりの拠点としての集落営農へ。井口グリーンワークスの役割は、現代においてむしろより重要性を増しているように思えるのだ。
■井口グリーンワークス
住所/石川県白山市井口町は5-2
電話番号/076-272-1114
公式サイト/https://www.igw.jp/index.html