【イシカワズカン】伝統守る最後の1軒 |山崎麻織物工房(羽咋市)
2024年2月1日(木) | テーマ/エトセトラ
〈 イシカワズカンとは… 〉
石川県へ首都圏の若者のUIターン地方移住促進を実現する求人サイト「イシカワズカン」。”地方都市で働くことは地方都市で暮らすこと”というコンセプトのもと「人々」「暮らす」「遊ぶ」「食べる」の4つのカテゴリーで暮らしの情報を発信しています。
イシカワズカンのHPはこちら
能登半島のほぼ中央に位置する羽咋市。そこに、今では能登で唯一伝統的な麻織物「能登上布(のとじょうふ)」を生産している『山崎麻織物工房』がある。皇室献上品にも選ばれる品質で、昭和には県無形文化財に指定されている。今では若者に向けた発信や多様な商品展開をし新しい形で届けている。その魅力を追いかけた。
上布とは上質な麻織物のこと。能登上布の歴史は約2000年前にまで遡り、崇神天皇の皇女がこの地で機織りを教えたことと伝えられており、越後上布や宮古上布と並ぶ、日本五大上布の1つに数えられる。能登上布を生産するのは『山崎麻織物工房』。今では1軒のみだが、昭和初期には120軒あったという。生活様式の洋風化のため製造数は減少し、組合も解散。そうした中で現織元・山崎隆さん(63)=羽咋市出身=の父仁一さん(3代目)は続けられる限り続けようと奮起した。隆さんは44歳のとき、跡を継ぐ形で工房に入った。
能登上布の大きな特徴は、肌触りが心地よく、軽くて通気性が良いこと。原料には古くから使われてきた苧麻(ラミー)を使用しており、上質な透け感や光沢感が特徴だ。「手入れは簡単で、汗を落とすだけで良いのです。家でも洗えますし、30年、40年と着られるので経年変化も楽しめます」と営業や商品開発に携わる久世英津子常務は言う。
能登上布の良さは麻の糸質の他に、絣模様(かすりもよう)にある。細く美しい十字が組み合って素朴な模様を織りなし、上布の持つ涼感を一層引きたてる。この絣模様を作るには糸の先染めが大事。能登上布ならではの染め技術として、櫛押し捺染(くしおしなっせん)という技法がある。絣(かすり)の染め幅によって太さが異なる櫛型の道具を使い、糸に染料を摺り込む模様をつける手法だ。細かい絣模様も均一に染めることができ、一般的な括り染めと違う染め滲みが少なくすっきりとした模様を作ることができる。
『山崎麻織物工房』では、伝統の技を活かしながら、今では多様な商品を展開している。「ブランディングが大切だと思っています。能登上布の魅力をいかに伝え、生活に溶け込んでいるかを軸に商品を考えます」と久世さん。着物の他にもストールやポシェットなどの小物類、バッグやアクセサリーなど普段使いできる様々なアイテムを展開している。
新商品の開発や取り組みはSNSでも発信。それを見た若い世代が織りの仕事をしたいとやってくることもあるという。「新しい商品を世に知っていただくこと以外に、お客様からの嬉しいコメントが入ったり、新しい人が来たりすることで、社内の空気が変わるという副産物もあるんです」。
新しい商品の開発は意欲的に行うが、創業130年の伝統の技を受け継ぎ、手織りで丁寧に仕上げることを守っている。織り機も使われなくなり納屋などでしまわれていた代々伝わるものを集めて使っているという。中には100年以上前のものもあり、手入れや修繕しながら大切に使用している。工房に響く織子のカッシャーン、カッシャーンと機織りの音が耳に心地が良い。
今後、着物を着る人が爆発的に増えていくことはないと久世さんは言う。それでも「ファッションアイテムとして取り入れやすい能登上布を通して着物の未来を作っていきたい。まとったときの凛とした透け感や涼感を夏の風物詩とする日本の美意識を伝えていきたい」と強い意志を見せる。
「おしゃれ着として普段使いしやすいので、休日のお出かけが楽しくなる」、「手織りならではの風合いや肌触りが心地よい」と客からの評判も良い。東京で能登上布を手にした人が、「能登の景色の中で能登上布を感じたい」と工房まで来るそう。「手仕事の現場を見たいと来てくれるのが嬉しい。ここにきて能登の良さを感じていただけたら」。
伝統の技を受け継ぎながら、その特性を活かし、より普段使いできるようにと新しい形で伝える『山崎麻織物工房』。ぜひ実際に触れてその魅力を体感していただきたい。