【イシカワズカン】料理から島の課題に向き合う|能登島サンスーシィ 長竹俊雄さん、幸子さん
2023年10月30日(月) | テーマ/エトセトラ
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能登半島の七尾湾に浮かぶ能登島。フレンチレストランと1組限定の宿『能登島サンスーシィ』は長竹俊雄さん(55)=栃木県出身=と妻の幸子さん(55)=東京都出身=が二人三脚で営んでいる。食事の準備で忙しい俊雄さんに代わって、幸子さんに話を伺うことができた。
以前は東京赤坂にフランス料理店を構え、ホテルでも仕事をしていた長竹さん夫妻。その経験と確かな腕前を生かして2014年にオープンしたのが、『能登島サンスーシィ』だ。ただのレストランではなく宿泊できる料理店(オーベルジュ)スタイルとしたのには理由がある。料理は風土や暮らしに根付いたものであるという考えがあったからだ。
「高校生の頃からペンションに憧れていました。宿泊することで島の穏やかな時間の流れや住民の暮らしが体験できると考えたんです」
長竹さん夫妻は東京時代から、山菜やきのこを採りによく地方へ出かけていた。「こんなに新鮮な食材ならその場で料理したい」と考えるようになり、田舎暮らしを望むようになった。準備資金を集めるなか、14年前に業務委託でホテルを運営するチャンスが巡り、ふたりで経験を積んでみたところ、地方で暮らすイメージが具体的になった。自信を得たことから開業に適した場所を探し始め、条件にあった物件を能登島で見つけたのだ。
「能登もわからないし、まして島があるなんて全然知りませんでした」幸子さんは笑いながら言う。それでも穏やかな日本海と黒い瓦の家並みに心打たれ、「ここしかない」とふたりで喜んだ。
開店当初は関西や首都圏からの客が多かったが今では地元客も増えている。小舟の行き交う里海と豊かで素朴な里山の絶景を楽しみながら、自分たちで育てた自然栽培の食材と新鮮な地魚の本格的なフレンチを味わえるのが店の魅力。1日1組限定なのでまわりを気にすることなく、のんびりと過ごせるのも人気の理由だ。宿泊は朝夕食付き2名からが1万8000円、レストランのみの利用は2〜6人での貸し切りになるが3万円からとしており、この立地にしてはかなりリーズナブルな価格といえよう。
念願の移住を果たしたふたりだが、今は自然あふれる島をとても気に入っている。
東京出身とはいえ、子どもの頃は草むらで走りまわり木登りも得意だった幸子さん。一方の俊雄さんの実家も郊外にあったというから、ふたりとも田舎暮らしにすんなり入っていけたようだ。俊雄さんは島に移住してすぐに、念願の漁業権を取り地元漁師と海に繰り出すまでになったという。刺激を受けた幸子さんも最近、漁業権を取得。店では農業体験やシュノーケリングなどのイベントも開かれるようになった。
一方で島の問題点も少しずつ見えてきている。やはり一番の問題は人口減少だ。
「移住者に来てもらうための島暮らし体験ができる場所をこれから始めようと思っています」と幸子さんが話す。とれたての魚をさばいて囲炉裏で焼いたり、田植えや稲刈りをやってみたりする体験型のコンテンツを構想しており、能登の古民家を改装できる能登の大工さんと一緒に造りあげるDIYの体験の場としても、能登らしい原風景を遺す活動も含めた一棟貸しのゲストハウスにしたり、空いた時に活用できるワーケーションスペースの整備も進めている。
幸子さんは「自分たちで育てたものを食べるという体験もいいですね。滞在中に島暮らしに触れながら、農漁業の困りごとに気付いてもらいたい」と語る。
風景や味わい深い食材という既存の魅力に、島の生活をリアルに味わえる体験コンテンツを組み合わせ、能登島でしかできない経験としてあらたな価値を生み出す。その過程で、地域の課題に目を向けてもらい、解決の糸口を探るのだ。
のどかな自然の中で、確かな技術の料理が味わえる『能登島サンスーシィ』。店名のサンスーシィ(Sans souci)は、”のんきな、気兼ねない”というフランス語だという。気兼ねなくリラックスできる雰囲気とくつろぎの空間を楽しんでみてはいかがだろうか。