【イシカワズカン】憧れた集落の住人に|里山まるごとホテル(輪島市三井町)山本亮さん
2023年7月3日(月) | テーマ/エトセトラ
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能登半島内陸部の中山間地にある輪島市三井(みい)。2014年に移住した山本亮さん(36)=都内出身=は、集落全体をホテルに見立てた『里山まるごとホテル』という事業を手がけている。
「母が秋田出身で、幼い時からいなかが大好きでした」と話す山本さん。都内の大学で景観デザインを専攻し、ゼミの活動で初めて三井を訪れた。学んでいくうちにのどかで自然豊かな風景や人々の優しさに引き込まれていったという。
「この暮らしあってのこの景観なんだと、面白さを感じたんです」
ゆくゆくは地方で暮らしたいと考えていたが、卒業後は東京のコンサル会社に就職しまちづくりを指南する方向へ。しかし、一般的には土木工事が中心の業界。暮らしや自然に魅力を感じていた山本さんは方向性の違いを感じ、退職することになった。地方移住するなら早い方が良いだろうと考えていたところ、偶然にも輪島市の地域おこし協力隊募集が目にとまる。渡りに船と応募。2014年、ついに学生の頃から親しんだ三井に住人として迎えられた。
地域おこし協力隊の活動を通じて能登には可能性がたくさんあると感じた山本さん。農家とともに輪島のコメをブランディングし、渋谷ロフトで開かれた「ロフトごはんフェス」(2016年)で大賞を勝ち取った。ときには住民と意見がまとまらないこともあったが「里山の魅力を届けたい」と動き続けるやりがいもあった。
地域おこし協力隊の任期後1年間起業に向けて準備し、2018年からゼミ合宿でも使用していた輪島市所有の古民家「茅葺庵(かやぶきあん)」の指定管理者になった。里山の暮らしを多くの人に体験し楽しんでもらいたいと考える山本さんは、茅葺庵を中心に集落全体をホテルに見立てた『里山まるごとホテル』を始動させた。茅葺庵を受付や食事の場所とし、地域の方がつくった自慢のコメや発酵食など里山に囲まれた三井ならではのメニューを提供している。近隣にある別の古民家も宿泊施設に改修。サイクリングや散歩ツアー、地元事業者と連携した和紙づくりをはじめ様々な体験メニューも用意した。今では里山のリアルな暮らしに触れることができると人気を集め、世界中から注目を浴びるスポットに成長した。
山本さん自身の暮らしはどうだろうか。
「車で10分もいけばスーパーがあったり、病院があったりと暮らしの不便さはない。でも雪が多くて寒い冬は大変ですね」
だがその大変さすらも楽しいという。ここまで充実しているのは、山本さんが学生時代から三井の人々と関係を築いてきた成果だろう。移住をするならまずは何回も通って地域のことを知り、関係を作っていくことが大事だと移住を検討する人たちにも伝えている。
だが、能登の人口減少は著しい。現在ホテルで提供する、風習や文化を体験するプログラムも年々指導できる人は減っているという。
「情報が溢れ、動画やインターネットで触れることはできるが、実際に直接地域の人から学び、リアルな体験をすることが重要だと思います。そうした土地の人が持つ暮らしの知恵や文化を継承し、伝え残していきたいです」
山本さんの言葉に力がこもる。学生のころから親しみを感じていた三井の田園風景。時折聞こえてくる里山まるごとホテルの利用者の元気な歓声も、今では集落の名物になりつつある。