プロの写真が語る~有森裕子の無名時代・銀メダル獲得・引退まで バトミントン・日本がリオで金メダルを獲得するまで
2017年11月29日(水) | テーマ/地元スポーツ
石川県白山市に合併された旧美川町はトランポリンが盛んな地としても有名です。
去る11月23日(祝・木)に「プロスポーツカメラマン北川外志廣トークショー」ということで、旧美川町出身のプロスポーツカメラマンの北川外志廣さん、バルセロナオリンピック銀メダリストの有森裕子さん、実業団バドミントン部を率いる日本ユニシスの平岡昭良社長(旧美川町出身)をゲストに迎えて開催されました。当日は、北川カメラマンと同い年のスポーツライター・武田薫さんがコーディネーターとして進行していきました。
白山市体育協会の主催ということもあって、スポーツが盛り上がるための話をたっぷりと聞かせてもらう貴重な時間でした。当日の模様を少しだけお届けしたいと思います。
北川外志廣(以降、北):写真を撮るなら東京しかないと思って東京へ行きました。私が師事したカメラマンのところにスポーツの仕事が舞い込んできまして、先生は女優ばかり撮っていたところに入ってきたのがスポーツの仕事でした。最初に撮った写真はハンドボールの写真。それが続いていくうちに、先生から「やってみるか」と言われたのがきっかけ(でスポーツカメラマンの道へ)。
武田 薫(以降、武):北川さんと私の関係ですが、スポーツライターとスポーツカメラマンの関係、似たようなところもあるかもしれません。
でもライターとカメラマンというのは考えていることが違うんです。北川さんは僕の原稿なんか見たことないと思います。いくら名文を書いても日本語で書いてますから外国の人はわかりません。写真は海外でも評価されますから。
日本がバトミントンで強くなったのは。
武:平岡さんに、いまのことをお聞きしたいと思います。
平岡昭良社長(以降、平):美川出身の平岡です。北川さんは、わたしたちのバトミントンチームを追いかけていただいて、いい写真を撮られるんです。
昨年のリオデジャネイロオリンピックでは、バトミントンで日本から9名の選手が参加しましたが、そのうち7名が私どもの会社の選手。女子ダブルスは16対19という絶体絶命のピンチから大逆転して金メダルをとらせていただきました。奥原選手も銅メダルをとりました。
(いまチームには)地元白山市出身で星選手が女子チームにいますし、男子ではエースの坂井選手が金沢出身です。
なぜバトミントンをはじめたかといいますと、1988年に2つの会社が合併して日本ユニシスになった。社員の心を一つにするのに何かないか。スポーツは感動を味わえるので社員の心を一つにするのにいいんじゃないか。1992年のバルセロナオリンピックからバトミントンが正式種目になる情報をキャッチしました。ということはオリンピックに出れる可能性が高いと考えました。
狙い定めてバトミントンの男子チームをつくりました。やっと2000年のシドニーでオリンピックに出れたけど勝てなかった。国内では優勝。男子は6回優勝しました。
そこにバトミントンでオグシオブームがあって、女子のバトミントンがブームになりました。それで2007年に女子チームをつくりました。人気をねらってつくったんですが、男子チームと女子チームと両方いると強くなるんです。
女子がいると男子は頑張ります。女子チームはどうかというと、男子とスパーリングができるんです。
ということは世界のスピードについていけるスパーリングができるので、両方共強くなっていきました。それで女子もたった4年で日本リーグで初優勝ができ、以来優勝4回の実力になりました。
武:戦後、企業の宣伝としてスポーツが使われてきました。いまは企業の社会責任も含めたかたちでスポーツがとらえられてきています。
平:バトミントン選手でも社員として扱っています。寿命の短いスポーツですが、その後の人生もしっかりと送れるように、ビジネスマンとしてのルールを求めています。世界遠征で移動するのも仕事で行くんだからスーツで移動しろとか。何か事件があったら出場できなくなったり会社にもリスクがあるので。
そのようなことを選手も社員も共有しながらやっていく。震災や復興などの課題を解決していけたらと思います。
平:不思議な縁で、北川さんは日本ユニシスのオフィシャルカメラマンをやっていますが、郷里が生んだ縁ではないんですよね。
北:覚えてないんですよね。一つ終わったら、また一つ。どこかで仕事が重複しているんですけど。ぼくがユニシスをやったのは(カメラが)デジタルになってからの仕事だと思います。前の人はフィルムでやっていたと思う。デジタルでできないかと言われて、やるならおもしろいものが撮りたいと思いました。ただ立って撮っていたのが、もっと能動的に、選手をプレイさせながら撮っていったら気に入られたんです。
有森裕子(以降、有):美川の出身ではありませんが、石川県にはいろいろなご縁で何回もこさせていただいています。どこかで見かけた方もおられるんじゃないかと。
マラソンが人気が高いのであちこちで。いまは応援の方に必死になっています。
公式記録がない、無名時代からの転機。
武:有森さんは日本女子マラソンにとって大きな役割を果たしたと思うのが、5千メートル、1万メートル、スピードが一番大事にされるんですが、有森さんは公式記録を持ってないはずなんですよ。
有:ありがとうございます。持ってません。
武:5千、1万メートルの記録を持っていない選手がメダルをとりました。小出監督はマメで、その後、高橋尚子さんとか金メダリストを輩出していますが、ひじょうに大きい勇気と参考になったんじゃないかと。
有:あまりに記録がない私はどこも実業団にいれてもらえませんでした。それで入れてもらったのはリクルート。企業が元気にならなきゃというときに、自分でみつけて入れてもらいました。
小出監督に、「こんなバックグラウンドがない人をみたのははじめてだ」と言われました。「その根拠のない自信を形にしてみたいよ」というわけのわからないことを言われて「いれてあげるよ」と言いながら、監督が頭のなかに思っていたのは、「この子をマネージャーにしよう」と思っていた、そのために入れたんだと言われました(笑)。
北川さんは女性アスリートにもてる!?
有:北さん(有森さんは北川さんのことをいつもこう呼ぶそうです)は、写真も撮ってくださったんですけど、いろんな角度でああでもない、こうでもないと言いながら、アスリートの表情も撮ってくださっていたんですけど、生きているところを撮ってくださったんです。
武:北川さんは女子選手にもてるんですよ。
どういうのかわかりませんが、ゴールに入ると北川さんのところにアスリートが来る。カメラマンは北川さんの後ろにくるんですよ。いい表情が撮れますから。それ北川さんは撮ってないんですよ。これはなんなのか、人たらしということがあるんでしょうけど、女ったらし。彼の評価が高いのはポートレート。アスリートたちは、女子選手は北川さんになんでも話す。
有:しゃべりますね。
武:それはどうしてかっていうと書かないんですよ。フォトグラファーですから書かない。安心して話すんですよ。
有:たしかに武田さんがいたらしゃべらないですよ(笑)。
第1回東京マラソンがラストラン。
武:これは有森さんの2007年のラストランですね。
有:遠くから見るといいですね~。じつは近くで見ると血だらけなんです。東京で育ててもらったので、会社の前も通るということで、第1回目の東京マラソンを引退レースとしたんですけど、周りに一杯の護衛がついてくださって。23km地点で私の動きが悪い足が後ろの人にひっかかってものすごいコケ方をして、第1回目の大事なスポンサーさんの名前がついたゼッケンがとれてしまって、それでそのままゴールしたんですが。沿道で皆さんに応援していただいて。「ありがとう」という声援をすごいいただいたんですよ。ゴール前はひたすら、「ありがとう」「ありがとう」と言われて。痛かったけど気持ちよく。寒かったけどあたたかく。ゴールをさせていただいて。最後願ってゴールしたところを撮ってくださって。
武:この表情を見るとさきほどずっと話していた日本女子マラソンの礎をつくったそういう最後が第1回の東京マラソンというのは象徴的だと思います。
私の原稿はすぐ忘れられてしまうんですけど、写真家はこの写真は残る。ここが違うところだと思います。北川さんほどのキャリアをつくることができるんだろうか。
この写真は、このポジションをとるというのは経験がないと撮れないと思います。
――ほかにも2020年の東京オリンピックに向けてプロと実業団の違いなど、興味深い話題がたくさん出て、取材する私も4人のお話に聞き入ってしまいました。スポーツは選手だけでなく、いろいろな関わり方があると知らされた一日です。
スポーツを応援したり、参加したりするときはそういった人たちのことを思い浮かべると、より楽しめたり、より頑張れるのではないかと思いました。
今回の講演を企画された白山市体育協会の方や、出演者の皆さん、ありがとうございました。
■取材協力
白山市体育協会
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